優しい胸に抱かれて
「お前が風邪ひいたから、計画変更で病院へ連れて行く、日下が柏木のお守りってのが加わっただろ。あと、この計画はお前と工藤は知らないってことだな」

 子供の遊びとも呼べない計画書を読み上げた島野さんに対して、嫌気が差したのと安堵したのはほぼ同時。加えて力が抜けて、もたれ掛かるように日下さんの体に倒れ込んだ。


「クライアントの足場を崩して事故を起こせ、という依頼を受けたまでだ」

「そこまでしなくても…」

「柏木、足を引っ張るとはああいうのを言うんだ。自分を責めるのもいいが、これからは自分の想いを大事にしろ。あいつのこと大事だって思えただろ? きちんと次に繋げろ。な? 2年溜めたその涙をさっさと流し切ってしまえ」

 時々、うんざりするけれど。時々、おかしな人だと思うけれど。時々、こうして島野さんの優しさが顔を出す。


「こらっ、嫌いって言ったの取り消せ! しっかし、柏木1人に翻弄される日下の図もなかなか面白いよな」

「ぶん殴りてぇ…」

「訴えられるぞ? パワハラで」

「そういう佐々木さんはセクハラで訴えられるんじゃねぇの。そもそも、この計画書は不備だらけだ。柏木が暴れるって危険予知が出来てねぇ。俺がお守り役とか計画性なさ過ぎ」

「平、あいつはどうした?」

「着替えてまーす」

「柏木。お前を店舗レンジャーに加えてやろう。何色がいい? 黄色がいいか?」

「黄色、いやだ…。ピンク、がいい…」

 店舗レンジャーの一員にはなりたくない。けど、どうせ色をくれるならあのハートと同じ色がいいと思った。


「てめえ、年考えろ。何がピンクだ! 俺の愛情が籠った黄色の何が不満だ!」

「そんな、おかしな愛情、い、らない…」

「佐々木、いますぐインパクト持ってこい。こいつの頭に愛の籠ったネジでも打ちこんでやる」

「まあまあ、柏木相手にいちいち腹立てても…。って、こらっ。童顔! お前、今何した? 鉛筆投げつけたな。…柏木、苦しんだ分、これからはとことんあいつを振り回してやれ、男ってのは女に振り回されてなんぼだ」


 男を振り回す前に。お節介な愛情表現に振り回され招いた、誤解と混乱。
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