優しい胸に抱かれて
一度、離したのは俺だ。だが、相手が離れようとすれば縛りつけたくなる。

自分の身勝手な想いに、心の中で自嘲気味に笑ってしまう。



紗希?今ので、俺の将来が見えた気がするよ。


そう遠くもない将来。良さんのように俺も、家を飛び出し行った紗希を、実家へと慌てて迎えに行くことになるだろう。

それでさ、紗希のお父さんに睨まれて、娘はやらんとか言われちゃったり。会わせてくれないこともあるかもいしれない。俺はとにかく、しこたま謝ってさ。

それを紗希は余裕な顔して、おかしそうに笑うんだよ。絶対。

それも悪くないよな。


俺にナポリタンを作ってくれて、コーヒーを淹れてくれる相手は紗希じゃないとダメなんだ。痒い肌にバームやら薬を塗ってくれるのだって、紗希がいい。

こうして、焦ったり取り乱したり格好悪いところ見せられるのも、そばにいたいと思えるのも紗希だけだから。



アルバムか…。連休帰った時、見せてもいいけどさ。その前に。

「紗希?俺は優しくないって言ったはずだけど?」

意地悪く言った後、再び唇重ねた。息を弾ませる紗希の、歪んだ眉を見なかったことにして、俺は瞳を閉じた。



遠くの方から、玄関の扉が開く音が聞こえた——。




−End.−
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