優しい胸に抱かれて
■お互いさま
‥‥‥‥‥‥

入社から3ヵ月、7月も残すところ1週間。環境に慣れて来て、でも仕事に関してはまだまだ不慣れな頃。大失態をした日だった。

本来ならばコピーを取るべき大事な企画書をシュレッダーにかけてしまい、朝一番の会議で使う書類は私の手によって再現不能になった。

悪くも前川さんの書類だった。こんな新人でも前代未聞なミスをしたなんて知られればどうなるか、右手に箸を持って、左手に茶碗と誰もが教わる事と同じで、何もわからない私にだってわかることだった。


真っ青になった私に、助け舟を出したのが彼だった。

『柏木? どうした?』

『工藤主任っ! どうしよう、どうしたら…』

取り返しの付かないくらいに、粉々になった紙とは呼べないそれを両手に握り締める私はこの時、完全に取り乱していた。

『落ち着け、何があった?』

肩に置かれた手は優しくて、それだけで落ち着きを取り戻せるんだから不思議だった。

『前川課長の企画書を…』

粉々に変わり果ててしまった書類を見せる。


『…シュレッダーか』

『はい…。どうしても戻せないですよね? 私、繋ぎ合わせてみます』

『…あのさ、これを繋ぎ合わせるって徹夜でもする気か? それに、他の書類も混じってるのにどれがそれかわからないだろ?』

言われてみて、なんて馬鹿な発言をしたのかと気づかされ、二進も三進もいかなくなった。


シュレッダーの前に座り込んだ私の腕を掴み取り、立ち上がらせた彼はそのまま手を引いてその場から連れ出した。

『大丈夫。こっち来て』

『…え、でもっ。これすぐに使うんです』

『分かってるから、だからこれ』

『…前川課長の席。えっと…、何するんですか?』

『…ほんとに、ちょっと落ち着こうか?』

と、呆れた顔で私の手の中にあった粉々になった書類の一部を取り上げた。


落ち着こうかと言われて、呑気にしていられるほど器用ではなく、そんなゆとりはどこにもなかった。
< 45 / 458 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop