優しい胸に抱かれて
□缶コーヒー
 漸く旭川に入り高速を下りてからの現場までの道のり。準備していたナビは全く使うことなく、すんなりと着いた。着いたのは18時半を過ぎていた。

 手渡されたヘルメットを被り、段ボールを台車に乗せると彼は一課のみんなが作業している1階へ。私はショップがある2階へと急いだ。

 まだ開店前のモール内は騒然としていて、壁一面だけではなく通路も全て養生材で覆われいた。

「おお、柏木。悪かったなここまで」

 現場だからか珍しく感情を全面に押し出している長島さんは、台車の音で私を見つけるなり手を挙げて駆け寄る。

「お疲れ様です。お待たせしました、持ってきましたよ」

 持ち上げた段ボールの箱を手渡した。受け取るとすぐさま中を開けて不足はないか確認する。

「よし、全部あるな。これで大丈夫だ、納期は間に合うぞ」

 長島さんは別の人間に箱を渡し、施工に取り掛かるよう指示を出し、また別の者に搬入の段取りを打ち合わせするよう指示する。


 現場が勢いづくと、その様子を聞きつけた他のショップで搬入作業を手伝っていたみんなが顔を出す。

 測定器を覗き込みレベルを測っていた佐々木さんは頭を上げた。

「柏木。よく来たな、お前どうやって来た?」

「佐々木さん、お疲れ様です。私は自分で運転するって言ったんです。でも、部長が許可出してくれませんでした」

「当たり前だ、その顔で馬鹿なこと言うなよ。冗談は顔だけにしろ」

 どっと笑いが巻き起こる。意味不明な注意を受け、声を上げて笑うみんなとは反対に私は眉を寄せた。

 会社にいる時と違って、現場にいる時のみんなは機嫌がいい。耳を摘まれることはなく、こうして面白くないのに笑っている。
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