計画的俺様上司の機密事項
「はい〜、4階、有沢です」


シンとした電話口に緊張が走る。

いつもなら、電話口の後ろのほうが騒がしいのに。


「総務の上条です」


少し低めで冷めたトーンの女性の声だった。

下の階にいたとき、真鍋先輩がその人と話をしているのを耳にしている。

真鍋先輩がその人に怒られているのを目撃したときだった。

あのしっかりモノの真鍋先輩が怒られるなんて、珍しかったからだ。


「は、はい、お疲れ様です」


「さっき結城部長から送ってくれた書類について話があるんだけど、時間大丈夫?」


「はい。大丈夫です」


「申し訳ないけど、総務に来てくれない?」


「わかりました。今、伺います」


受話器を静かに置き、ふう、と強めに息を吐く。

それをみたシンちゃんが心配そうにこちらを眺めている。

野上くんも走らせていた赤ペンをとめて、じっと視線を送ってきた。

心配されている空気が漂ってきたので、元気良く椅子から立ち上がる。


「6階にいってきます!」


「お呼びがかかるなあ、有沢」


「いってらっしゃい」


二人に見送られるのも慣れっこになって6階へと向かう。

シンちゃんにお願いしたのがまずかったかな、送る前にチェックしてからのほうがよかったな、と反省した。

総務のある6階は入社したとき、一度だけ入社オリエンテーションで各部署をめぐったっきりだ。

総務関係はたいてい先輩方、とくに真鍋先輩が窓口になって書類提出をしてくれていたのであまり接点はなかった。
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