計画的俺様上司の機密事項
「いろいろと面倒かけてごめん」


「謝るな。オレが夏穂を守るって決めてたんだから。それに、みんな協力してくれた」


「みんな、って?」


「渡瀬、真鍋。あいつら優秀な部下だよ。タイムカードのことは二人とも、どこに隠されてるか見当がついていたみたいだからな」


「えっ、先輩たちが……」


「新部署に移行する際に野上と上条の噂を耳にした。それから夏穂の周辺におかしな動きがあったから渡瀬、真鍋に相談した。もちろん夏穂のこと思ってくれていた大切な先輩だから話に協力してくれてな。動いてくれた」


「……そうだったんですか」


「まあ、おかげで疑われちゃったけど」


給湯室で真鍋先輩と話をしていたのは、野上くんとわたしのことだったのか。

てっきり好き者同士かと思っていたけれど、先輩二人とも守ってくれてたなんて。

シンちゃんは顔をわたしに近づけ、じっと睨む。


「で、キスされたか? 野上に。ぶちゅーって」


そういってシンちゃんはこんな感じでやられたか、と唇を尖らせていた。


「キスされそうになっただけ。してない」


「そっか。まあいい。オレが消毒してやるよ」


「ここで?」


「恋人の聖地だって言ったろ」


「ちょ、ちょっと」


躊躇するまもなく、唇が重なる。

互いの唇の味を確かめあうように、ゆっくりと交わるようにキスをした。

ようやくシンちゃんから唇を離してくれて、どれぐらいキスしたのかわからなかった。

シンちゃんはわたしの顔をみて、クスっとやさしく笑う。


「あーあ、会社でキスしちゃったな。内緒ごとが増えたな。これ以上はもったいないから、夏穂、帰ろう」


「で、でも」


「もういいんだ。心配するなって」


「……うん」


シンちゃんは立ち上がり、そっとわたしの手を引っ張って立ち上がらせてくれた。

そういえば、おわんの山のときも、わたしを見つけたとき、のぼり棒を滑り降り、わたしのそばまでやってきてくれて、わたしの手を握りしめてくれたな、と思い出した。
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