オフィスのくすり
「出会ったから、まあ、ついでに昔話でもしようかなと思っただけだ。

 っていうか、お前が今、ごちゃごちゃ言わなきゃこの鈍い女はまったく気づいてなかったと思うんだが。

 ーーマヌケだな」

 マヌケと罵りながらも、その口調から、井上はどうやら、和泉のことが結構気に入っているらしいと感じた。

「何もかも遠い昔話だよ」
と感慨深げに言う井上を、

「年寄りくさいわね」
と一刀両断しながらも、やっぱり少し嬉しかった。

 そして、思う。

 当時、井上の気持ちに気づいていたら、どうしていただろう? と。

 でもやっぱり、前の旦那と結婚していた気がするし。

 離婚しても、井上ではなく、今の旦那のところに行っていた気がする。

 同期の中では、一番気の合う相手だとは思うのだが。

「人生って、結局、縁とタイミングね」

「ま、それだけじゃないだろうけどな」
と言いながら、忘れた頃に吐き出されたFAXを見て、井上は笑った。

「なに?」
と和泉と一緒に覗き込む。
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