ビューティフル・ワールド

「なんだ、そんなところに突っ立って…ああそうだ、個展が始まってから、お菓子だなんだって渡されたり贈られたりして溜まってるんだよ。食べていけば?」

りらは気にした素振りもなくそのまま台所に行き、冷蔵庫を開けている。

「そうだな…」
「紅茶もやたらもらうんだ。しばらくティータイムには困らないな。好きなの選んでよ。ていうか欲しいのあったら持ってけよ。」
「ああ…」

柳瀬は生返事をしながら台所のりらの元へ向かう。

「大久保がいないからティーパックだな。え? いないよな?」

りらが確認しながら振り返った時には、柳瀬はすぐ後ろに立っていた。
その近さに若干驚きながらも、りらは特にたじろぎもしていなかった。

「いないよ。」

柳瀬は短く言う。その毛羽立った響きにも、りらは気がつかない。

「薔薇は?」
「え?」
「大久保さんが持ってきた薔薇。」
「ああ。」

りらはあれか、と頷いた。

「あの後、子ども連れてきた人が居てね。すごい可愛い女の子だったから、あげた。王子様になったみたいな気分で楽しかったよ。」
「そうか。」

思い出し笑いをしているりらに、柳瀬は美しい微笑を見せた。
りらが、大久保から貰ったものに執着を見せない。
それは当たり前のことでも柳瀬に多少の満足感を与えた。

「で、どうする? 日保ちの面で言うとマカロンあたりを食べてくれるといいんだけど、男ってマカロン好きじゃないよな。」
「その前に、髪乾かせよ。」
「ああ…」

りらが、忘れてた、という顔をする。柳瀬はタオルの上から頭を両手で優しく触れた。
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