奴隷少女と我儘王子
「これはある女の子のお話。
女の子の名前はアンと言って、街の皆から愛されている可愛らしい女の子です。
ある時、アンは『そうだ、冒険に出掛けよう!』と仲の良かった幼馴染みのデュークと共に冒険の旅へ出ました。
けれど、村の外は危険な魔物がいっぱいです。
アンとデュークは、知り合いの冒険者に習った剣術を駆使し、魔物を倒して行きます。
倒しても倒しても、魔物は沢山やって来ます。
ある時アンが言いました。
『どうして、こんなに魔物が沢山いるの! こんなにいたら、人間が皆いなくなっちゃうよ!』
その言葉を聞いたデュークはアンに言いました。
『北の森に住んでいる竜王様なら、魔物の数を減らして暮れるかもしれないよ』
それを聞いたアンは進路を北の森に変えて竜王様に会いに行きました。
竜王様の住む北の森は不思議な森で、住んでいるのは、人間に襲い掛かることの無い優しい動物達ばかりでした。
そして、竜王様のもとにたどり着いたアンは、跪いてゆっくりと自分の気持ちを言葉にしました。
『私は街で、幸せな日々を送っていました。けれど、毎日がつまらなくて、ここにいるデュークと共に冒険の旅に出ました。楽しい旅だと思っていたこの旅は、魔物に襲われるばかりで、何度も何度も挫けそうになりました。
魔物に食べられそうになったのも、1度や2度ではありません。けれど、その度にデュークや出会う人々に助けられ、今この場に立っています。
私は、私をここまで育ててくれた人々に恩を返したいのです。竜王様、どうか私の願いを聞いてください。この世界の魔物達は、人間を襲い今では人間の数が随分と減ってしまいました。私は、それが悲しくてなりません。どうか、魔物の数を減らして下さい』
アンは涙を流し、訴えます。これに竜王は答えます。
『そなたの想いしかと受け取った。その願いを叶えるのもやぶさかではない。しかし、それでは私に益が無い。そなたは私に何を差し出すのだ?』
その時、アンとデュークは初めて気づきました。
何かを得る為には必ず対価が必要だ、と。
パンを食べる為にお金が必要なように。
お金を集める為に汗を流し働くように。
アンは言いました。
『私のこれからの人生全てを』
それは余りにも大きな決断です。
竜王様は、興味深そうにアンを見つめます。
『貴女は、人間にこの北の森に追いやられたと、聞いたことがあります。これから私はこの人生の全てを使い、貴女がまたあの美しい空を自由に飛び回れるように人間を説得致します』
それ聞いた竜王様はケタケタと笑い出しました。
『そなたの人生だと言うのだから、私に喰われても構わないと言ったのかと思ったぞ! そうか、人間を説得するか! 面白いことを言う小娘だっ! 良いだろう、そなたの願い、確かにこの竜王が聞き届けた!』
世界は優しい光に包まれ、魔物達も数が時と共に数を減らして行きました。
こうして、魔物が減りドラゴンが自由に空を飛び回る、今の世界になったとさ」
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