オフィス・ラブ #Friends
一本吸い終えた堤さんが、あたしの背中を優しくなでて、キスを落としてきた。

そのままあたしに覆いかぶさるようにして、首やら肩やらにも、キスをくれる。

髪に指を通しながら、猫みたいだったね、と言った。



「恩知らずってこと?」

「気持ちいい時だけ、甘えてくる」

「………」



確かにそうかもしれない。

背中に温かい重みを受けながら、枕に顔を乗せると、なんだか心地よくて、眠くなってきた。



「身体も柔らかいし」

「バレエやってた」

「いいね」



もう電車は動いてないけど、この人、タクシーで帰れちゃう距離なんだよな。

どうするつもりなんだろう。



「帰っちゃう?」

「泊まってってほしいなら、泊まってくよ」



なにそれ。

あたしからお願いしろ、みたいな。


そこで気がついた。

玄関でのあれも、頑なにキスをしてくれないのも。


結局、主導権を取り戻したかったんだ。


あたしからあっさり誘っちゃったことで、それを奪われた気がして、それが気に入らなかったんだ。


なにこの、末っ子。



「泊まってって」



枕を見つめながら、珍しい「お願い」をしてみる。

優しい、柔らかい声が。


いいよ、と。


ちょっと満足げに、言った。



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