オフィス・ラブ #Friends
朝から全てのレースに賭け続けて、気がついたらもう午後だ。

途中、ホットドッグとか焼きそばとか、ありえないくらい適当な昼食をとって、途中まではスタンドで見て、それからここに来た。

堤さんの言うとおり、自分で馬券を買うと、レースを見るのにも力が入って、がぜん面白い。

そして意外と、当たらない。



「すぐ第5レースだよ、決めて」

「あたし、また同じ番号にする」

「次は11頭立てだから、16番は無理」

「えっ」



慌てて新聞をのぞきこむ。



あたし、何やってんだろう。

誕生日で、日曜で、いい天気の今日。

よりによって競馬場で、ピクニックみたいに芝生に座って。


そもそもこの人と、手もつないでなければキスもしてない。

そういえば今日って、するの?


ぐるぐると考えていると、決めた? と声をかけられた。



「もう券売機まで行くの面倒だから、ここで買っちゃおう」

「携帯で買えるの」



芝生の上に、あおむけに寝そべって携帯を取り出した堤さんが、買えるよ、と答えた。

まあ確かに、今の時代なら、そのくらいできて当然だ。


隣で体育座りをしていたあたしは、彼がまぶしそうに手をかざすのを見て、新聞で日光をさえぎってあげた。

ありがと、とこちらを見て微笑む。



「競馬、好きなの?」

「趣味を訊かれて、競馬と答えるほどじゃないけどね」



へえー。

でもさっきから、100円とか少額の賭けばかりしてて、別にギャンブルを楽しんでいるようには見えない。

その疑問に気がついたのか、あたしのぶんまで馬券を買い終えた堤さんが、にこ、と笑った。



「ジョッキーの二世代にわたる因縁対決とか、調教師との絆とか、馬主のロマンとかね。続けてると、そういうのが見えてきて、けっこう面白いんだよ」



そう言う堤さんを、あたしはぽかんと見おろした。

ロマンとか言っちゃうの、この人。

そういうストーリー的なものに、感動したりする人だったの。

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