オフィス・ラブ #Friends
そういえば、携帯で買ったぶんって、お金はどうなるんだろう。

あたしは、自分のお金を出したほうが絶対に面白いと思って、馬券は全部自腹で買っていた。



「引き落としだから、後で、飲み物でもおごってくれればいいよ」

「配当金は?」

「当然、俺の口座に入る」



ネコババしないでね、とわざと言うと、当てる気なんだ、と大笑いされた。



「当てる気だから、楽しいんじゃん」

「ほんと、素質、あるよ」



まだ笑いの残る声でそう言って、あたしを見あげる。

その顔は、どきっとするほど優しくて、愉快そうで、会社で感じるあの独特のオーラはなく、親しみやすい。


もうすぐレースの始まるコースに目をやる。

青い空に、綺麗なグリーン、真っ白な柵。

次のレースは2000mだから、ちょっと長い。

少しずつ少しずつ、何が行われているのかわかりはじめてきて、楽しくなってきた。



「ね、あの勝負服、さっき見た…」



隣に言いかけて、途中で声を飲みこんだ。


寝てる。


両腕を枕にして、立てた脚を組んで。

少し顔を片側に向けて、綺麗な喉をさらして、すうすうと。

その白い頬に日差しが降りそそぐのに、焼けちゃわないか心配になる。


好きな子がいたら、寝られないとか言ってたのは、どうなったんだよ。

意地の悪い反応がないのをいいことに、横に正座をして、間近でその顔を観察してみた。


あたし、知ってるよ。

統括とチーフの兼任で、ものすごく忙しいんだよね。

GWも、ほとんど休めなかったはずだって、恵利が言ってた。


長いまつ毛まで、色が薄い。

別にあたし面食いじゃないけど、ここまで涼やかに整ってると、見る価値を感じる。

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