雪見月
「わ、私ですか」

「はい」

「……何で、しょうか」


走って追いつくと、振り返ってくれた。


上がる息を殺しながら、無理矢理話す。


「この後お時間ありませんか……!」

「…………っえ、」


引き気味な彼女に焦る。


そりゃそうだ。


でも、ごめん。


どうしても掴みたかった機会がひょっこりやって来たのに、こんなところでみすみす逃がしはしない。


逃がしてなんか、やるものか。


「少し! 少しで良いんです、ナンパとかじゃなくて、渡したいものがあるんです」


五分もいらない、一分、いや三十秒でいい。


取りに行けばすぐなんだ。


「お願いします、待っていてもらえませんか」


全部言い切って頭を下げた俺に、彼女が躊躇いがちに口を開いた。


「あの」

「……はい」


緊張する。


あなたなんて知りません、とか、初対面ですよね、とか言われたらどうしよう。
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