雪見月

始まりは雪のようにまっさらで

「これ、ストラップです。あのときは本当にありがとうございました」


慎重に保管していたからだろうか、買ったときと何一つ変わらない包装に安堵する。


渡すものがよれていては意味がない。


お辞儀をしてしっかり目を見て渡すと、いえ、その、と覚えている彼女らしくなく目を泳がせた。


「お互い様ですから」

「俺の方だけ得してますよ、お互い様とは言えません」


彼女の優しさ故の台詞だろうと思ったのだが、違ったらしい。


本当にお互い様なんです、と彼女は真剣に首を振った。


「え?」


身に覚えがないことだった。


対応できなかったのは仕方ない。


間抜けな顔は大目に見て欲しい、と思う。


「覚えて……いらっしゃらない?」


訝しげに聞かれても、そうだ、としか言えないので、素直に頷く。


「はい、……あっ、いえ」


彼女は覚えているのなら、何か印象に残ることなのかもしれない。


失言したのに気付き、慌ててすみませんと付け足した。


「そう、ですか」


彼女は少し残念そうに笑った。


「……そこの信号で」


指差されたのは通学路の信号――俺がこけた、あの。
< 48 / 75 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop