雪見月

雪晴れの夢追人

試験が終わって帰宅してから、もう間違わなくなった単語帳をめくる。


多分私はこれからも、この単語帳の単語だけは絶対に忘れない。

忘れることなんてきっとできない。


……魔法みたい。


何度やっても間違えていたのに、残された温かみが雪解けを促して、彼はいとも簡単に私の強張った肩を解いた。


魔法をくれて、カイロまでくれて。


あんな無表情の人が魔法使いだなんて違和感があるけど、それでも彼は私の中で魔法使いだ。


記憶を反芻して自然と笑みがこぼれた。


あまりこだわって整えていないのだろうか、さらりと流した黒髪は細くて、今朝の少しの雪に濡れて毛先が跳ねて。


毛先を伝った雫が落ちそうで落ちなかったり、落ちたときはその重さに引っ張られて僅かにたわんだりしていたのを思い出す。


緊張していたためだろう。


変に細かい部分ばかり覚えている。


彼の無表情と相まって、何だか小さな子供みたいな印象を与えるのに、切れ長の瞳や薄い唇はほとんど動かず。


淡々と物事を捉えている感じがした。


彼はきっと頭の良い人だ。


学力もそうだけど、多分きちんと理論立てて考えるし、頭の回転が速い人だ。


彼の口調がその思慮深さを想像させるのは容易かった。


初め微笑んでくれたのも早口だったのも、今更ながら彼の配慮だろうと気付いて、心臓が一度大きく鼓動する。


「同じ学年、だよね」


相手からすれば私はただの他人。


でも。
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