となりの専務さん
……大、事な子。

専務にとって葉津希さんは、大事な人……。


全身に、さっきよりも強い衝撃が走ったような感覚だった。



私は舞い上がっていた。

専務と休日にデートして、服を選んでいただいたり、メイクしていただいたり……キス、されたり……


専務に大事にされてるような気がしてた。


でも、実際は全然違った。

専務にはたくさんやさしさをもらった。
人間として大事にしていただいていると思う。


でも、女の子としてじゃない。

女の子として本当に大事な人とはーー結婚できないんだ。


……私は特別なんかじゃないから……結婚しようなんて言えるんだ。



……でも、ショックを顔に出さないようにしなきゃ。
専務は悪くないよ。私が勝手に勘違いしてただけだから。



「……私、ちょうど夕ご飯の買い物に行こうと思ってたんです! よければ専務の分も作りますよ! なにがいいですか?」

話を変えようと、私はなるべく明るい声と顔で専務にそう聞く。

でも、専務は。


「大丈夫。実は夜になったらまた葉津希と会うんだ」

「え?」

「といっても、べつに実家には帰らないけどね。ちょっとふたりでもう少し話とかしながらご飯食べるだけ」

「そう、ですか……」

ダメ、暗くなっちゃダメだよ自分。


「気をつけて行ってきてくださいね」

「石川さんも買いもの行くんでしょ。気をつけて」

「私はそこのスーパーですし大丈夫ですよ! じゃあ、カーテンかけますね!」

私は必死に平静を装いながら、カーテンで穴を隠した。
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