となりの専務さん
そのまま、私はしばらくその場に立ち尽くしていた。


…….専務と『結婚』したら、きっと今と変わらずにやさしくしてくれると思う。
いろんなことを気にかけてくれて、普段は無表情だけどたまに笑ってくれて、私の料理をおいしいって食べてくれて、たまに今日みたいにいっしょにファーストフード店に行ったり。

そんな風に、きっと楽しく過ごせると思う。


そもそも、専務に言われた『結婚』に愛がないことなんて、初めからわかってたことで。
親に決められた通りにしたくないから私と結婚しようって言っただけで。
私だって、本気になんてしてなかった。


……そのはずなのに、いつのまにか少しの期待をしてたんだろうか。



専務が“大事”思う女の子は、私じゃなかったのに。




……ていうか、日本のトップを誇る企業の社長の息子さんが、借金のある家の私なんか選ぶはずがなく、ほんの少しの期待すらおこがましかった。



専務のとなりには、キレイな婚約者のハヅキさんがお似合いだ。




……その後、なんだか買い物に行く気にもなれず、部屋でボーッとしながら過ごしてしまった。


しばらく経って、十九時を回った頃に専務の部屋の電気が消えるのがカーテン越しにわかり、そのまま出かけていったみたいだった。ハヅキさんとご飯を食べに行ったんだ。


……私も、ご飯は食べなきゃ。

重い腰を上げて、私はようやく買いものに向かった。
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