となりの専務さん
「今日はお時間ありますか?」

朝食の用意をしながら、うしろでお布団の片付けをしている専務にそう尋ねると。


「あ、いや、午前中は会社に行かないとだな。なにかあった?」

と、申しわけなさそうに専務は答えた。
お付き合いを始めてから、以前よりはずいぶん専務の表情はわかりやすくなった気がする。基本はいつも無表情であるけれど。


「あ、いえ。おヒマならいっしょに出かけられたらなって思っただけです。お仕事なら仕方ないです!」

「ごめんね」

「謝ることじゃないです!」

お付き合いを始めてからも、専務はお仕事が忙しくて、休日も会社に向かうことが多く、決して頻繁にデートをしているわけではない。
でも! それに不満があるわけじゃなくて! むしろ、お仕事してる専務が好きだし……!


すると専務は。

「…でも、夜までには帰るから、夕飯作っといてくれたらうれしいな」

「! もちろんですそれは!」

やったぁ。お夕飯を専務といっしょに食べられる!



そして、用意した朝食をいっしょに食べ、その後、専務はスーツに着替えて出かける準備を始め、私は食器の後片付けなどを行う。


「じゃあ、そろそろ行ってくるね」

玄関先にて、専務が私に言う。


「はい! 気をつけて行ってきてください!」

「うん」

そう言うと専務の右手が私の前髪をそつとどかす。

そして。


ーーちゅっ。


……行ってきます、のキス。
今日みたいに、専務か私の部屋にいっしょにいて、専務が先に家を出る時、必ずしてくれる。
< 155 / 230 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop