となりの専務さん
すると専務は。


「……会社を継ぎたくないわけじゃないんだけど、人生をなにもかも他人に決められるのが嫌なんだ」

「は、はあ……?」

「だから婚約者と結婚するくらいなら、君と結婚したい」

「どんな理由!?」

ひどい! それって女なら誰でもいいってことでしょ!
ひどすぎるよそんな理由で私と結婚するなんて! 私にも人権ってものがあるので!!
まぁ課長のその発言は相変わらず無自覚だろうからそこまで責めませんけど!!


「と、とにかく離れてください……っ!」

私は両手で専務の胸板を押すと、専務はあっさりと壁ドン状態から私を解放してくれた。



そして。


「べつに、誰でもいいってわけじゃないよ。
どうせ結婚するなら君みたいにかわいい子がいいし、ちゃんと常識があって真面目そうなところも俺の好みだよ」

「ほ、褒めていただいてありがとうございます……。でもなぜうれしくです……っ。か、帰ります!」

そう言って、私は慌てて玄関を飛び出した。



自分の部屋の玄関を開けると、すぐに閉め、なんとなくその場に座り込んだ。


……突然変なことを言われ、それに対して驚いているのももちろんあるけど……


よく考えたら、あんな至近距離で、結婚したい、なんて。

理由はとんでもなかったけど、ゆっくり思い返すと、なんかすごいことを言われたんじゃないか? と思ってしまって。

とはいえ、やっぱり理由はとんでない意外のなにものでもないんだけど。


でも、至近距離で見つめてきたあの表情に、さっきはただただ驚くばかりだったけど、思い返して今さら胸がドキッとしてしまうなんて、私はおかしい。



……あくまで、男性にあんなにまっすぐ見つめられて、しかも壁ドンされたことにドキドキしただけ。結婚しようって言葉にときめいたわけじゃない。



「……とりあえず、クビって言われなくてよかった」

専務の言う通り、明日からの本格的始動に備えて早く寝よう。
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