となりの専務さん
お金の事情
私が壁に穴を開けた時の大きな音は、一階に住む大家さんや他の住人の方が住む部屋にも響いたと思うけど……大家さんはコンビニでも行ってるのかたまたま留守みたいで、他の住人の方々も出払ってるみたいだった。
みんなといっても、このアパートは一階に大家さんの家を含む三部屋があり、二階に私の住む部屋を含めたもう三部屋があるのみ。
しかも、二階の真ん中にある私の部屋の右隣は空き部屋だから、アパートのほかの住人の方は、この肌のキレイな男性と大家さんを除けば、一階の各部屋に暮らすふたりだけだ。ひとり暮らし用のアパートだし。
とにかく、そんなわけで、この異変に気づいた人はとりあえずいなかった。



「申しわけありません……」

私は土下座をしながら、隣人さんの部屋で、隣人さんに謝罪した。

壁の穴の大きさは、身長百五十五センチの私が中腰になれば楽々となりの部屋に行けてしまうくらいの、なかなかの大きさで。

ちなみに、ゴキブリは壁の穴からこの部屋にカサカサと移動し、肌の綺麗な男性がスリッパでパシンとやってくれた。なにからなにまで本当に申しわけない。



「とりあえず、顔上げたら?」

私の正面に座りこんだ隣人さんにそう言われ、私はゆっくりと顔を上げた。


隣人さんは昼に会った時と同じボサボサ髪だったけど、肌は変わらず、やっぱりキレイなのがよくわかった。
昼に会った時はジャンパーを着ていたからわからなかったけど、今は薄手のTシャツを着ていたので、とても細身でモデルさんみたいな体格だなと思った。ジーンズをはいた足がとっても長いのも、座りこんだ状態でもよくわかった。


……肌だけじゃなく、声も、透き通ったようにキレイな声だった。
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