声が聞きたくて


それでも私たちの生活は順調で
毎日が何事もなく
幸せに暮らしていた


相変わらず私の声は出ない
それなのに、雅人さんの耳には届いている


ためにし雅人さんが着替えている背後から呼んでみた


『雅人さん?』


ほら、気がつかない
やっぱりね……そう思った


「あずさ、用がないのに呼ぶな」


そう言って振り向いて笑ってくれた
背中に目があるのか?と思った


だから、私がキッチンの陰で雅人さんが見えない場所で呼んでみた


『雅人さん、届かなーい!』


さすがに無理だろうと思っていたら



「どれ?上?」


『……あ、うん、鍋』



背の高い雅人さん
キッチンの上の収納から
鍋を取ってくれた



『なんで、聞こえるの?』


誰に話しかけても聞こえなかったのに
どうして雅人さんにだけ聞こえるの?
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