お帰り、僕のフェアリー
フェアリー昇華
関空到着は朝9時過ぎ。
静稀はもう、次の公演のお稽古を始めている。
僕はタクシーで帰宅して、我が家でようやくくつろいだ。
マサコさんの和食は、最高に美味しかった。

夜遅くに静稀が瞳をキラキラさせて帰ってきた。
「ただいま~。セルジュ、おかえりなさい!どうだった?楽しかった?」

「ただいま。楽しいというか……懐かしかったよ。次は静稀も一緒に行こうね。」
そう言って、静稀を抱き寄せる。

「会いたかったよ。」
静稀の頭を撫でながら、顔中に口づけを落とす。

くすぐったそうに静稀は笑ってたけど
「向こうで、誰かにbaisemains(ベーズマン)した?」
と、素朴な疑問風に、聞いてきた。

僕は静稀の目を覗き込んで、不安の翳(かげ)を見つけた。
一応シャワーは浴びたんだけど、Catherine(カトリーヌ)の香水でも残ってたかな。

僕は、罪悪感を見せないよう、目を閉じて、静稀の唇に口づけた。
「今回は身内にしか会ってないよ。あ、おばあさまに、した。今度は静稀を連れてきてって。そうだ、すごいものもらっちゃったよ。Chevalieres(シュヴァリエール)って、わかる?」

そう言いながら、おじいさまにいただいたシュヴァリエールと、カトリーヌに託された家宝の真珠の首飾りを静稀に見せた。

「すごい!本当に貴族だ!」
静稀は触れるのをためらって、箱を持ってしげしげと眺めていた。

「結納の品に加えさせてもらうよ。首飾りは結婚式でつけてくれると、うれしい。僕の母のお気に入りだったんだ。婚約指輪も注文してきたよ。お楽しみに。あとは、京都に結納のお飾りを見に行って……」

静稀のようすが変なことに気づいて、僕は途中で言葉を止めた。
「ど、どうしたの?」

静稀は、顔をクシャッと歪めて泣いていた。

心臓が早鐘のように音をたてる。
「静稀?」

いつものかわいい涙じゃないことはすぐにわかった。
珍しく静稀からマイナスのオーラを感じる。

怒ってるような……責められてる?
心にやましいものを抱えてる僕は、静稀に断罪されることを恐れて、動けなくなった。

どうしよう。
先に謝ったほうがいいのかな。
いや、否定しきったほうがいいか。
浮気のばれた男の対処法なんか僕は知らなかつた。

……そもそも、病的に一途な僕がこういうことになってしまうなんて未だに信じられないし、まだ困惑してるのだ。
先に義人に会ってイロイロ経験談を拝聴すべきだったか。
ものすごくからかわれるんだろうな。

僕は頭の中がぐるぐると混乱してるのを感じながらも、表情に出さないように耐えた。
時間にして、ほんのわずか十数秒なのだが、僕にはものすごく長い沈黙を経て、静稀が口を開く。

「くやしい~っ」
歯噛みして、ボロボロと泣く静稀。
やっぱりバレてる!
< 120 / 147 >

この作品をシェア

pagetop