お帰り、僕のフェアリー
事故から三ヶ月が過ぎて、静稀は普通なら安定期と言われる時期を迎えた。

しかし、切迫流産の危険のため、点滴ははずされず、絶対安静のまま。
もちろん透析もあるが、暇を持て余した静稀は、カトリーヌに教わって、フランス語のスキルをどんどんあげていた。

……2人は本当に姉妹のように仲良くなっていた。
元々静稀は姉御肌の女性とウマが合うようだが、カトリーヌへの入れ込みようはそれ以上だ。

「カトリーヌと同い年の赤ちゃんが産みたいから、セルジュ、精子提供して。」
とまで言い出した。

「勘弁してよ。なんで新妻にそんなこと言われなきゃなんないのさ。」
種馬扱いにうんざりして、僕は反抗し続けた。

「だって、見ず知らずの人の子供よりセルジュの子のほうが安心だし、うれしいじゃない?」
最初はそう言い張ってた静稀だが、そのうち、こう言い出した。

「私、カトリーヌにセルジュだけは譲ってあげられないもん……。」

静稀……当たり前だろう……。
この子は、本当に、どこまでお人好しなんだ。
僕の代わりに、僕の子種を差し出すって?
信じられないな。
でも、それが静稀なんだよな。
僕は、さじを投げた。

「それが静稀の望みなら、協力するけどね。フランスに帰ってからのほうがいいんじゃない?」

静稀は、ぱあぁっと表情を輝かせた。
「あのね!でもね!そうなんだけど、セルジュがフランスに行っちゃうのは、私が淋しいから嫌なの!日本で人工授精して、着床して、安定期になってから帰国してもらおう!ね?そうしよう!病院も、もう、めぼしいとこ見つけたから!」

僕は苦笑いするしかなかった。
カトリーヌと伯父の狙い通りに話は進んでるわけだ。


夜、僕はカトリーヌにせめてもの嫌みを言わせてもらった……conversation d'oreiller(ピロートーク)で。
「君を買いかぶっていたよ。ただのワガママな女王様じゃなかったわけだ。また見事に静稀を丸め込んだもんだ。」

情事の後のけだるさで、僕の声は低くかすれ、より不機嫌そうに聞こえたらしい。
カトリーヌは白い腕を僕にからめて、抱きついてきた。

「ひどい言われようね。特に策を弄した覚えはないのよ。なのに少し心が痛むわ……静稀が優しすぎて。」
「おいおいおい。今更、静稀に懺悔とかやめてくれよ。」

カトリーヌは歪んだ微笑みを返した。
「わかってるわ。あなたと私は、complice secret(秘密の共犯者)よ。生涯。」

さすがは、ESCP EUROPE(パリ商業大学院ヨーロッパ)を出た才女というところだろうか。
結局カトリーヌは、静稀も僕も籠絡してるんだから。

……静稀に促されるまでもなく、既に僕とカトリーヌは秘密の夜を共有していた。
< 139 / 147 >

この作品をシェア

pagetop