お帰り、僕のフェアリー
「つまり、公演が終わるまで、お預け、か。」
自分でも滑稽なぐらい、僕は脱力していた。

静稀は慌てて
「あの、丸一日は当分無理でも、お、お泊りとか、全然できますから、あの……」
と、そこまで言って、ぐっと詰まり、しばらしくして、ふにゃ~っと泣きべそをかいて続けた。

「き、嫌わないで……」

静稀は必死なのに、申し訳ないけど、笑ってしまった。
嫌いになるわけがないだろ。

「ごめんね。そうじゃないんだ。静稀がいとしくていとしくてたまらないから早く自分のものにしたい。でも、それ以上に、静稀をとても大切に想っているから心ゆくまで愛したいんだ。時間をかけて。」

かりそめの一夜で終わらせるつもりはないから、慌ただしい行為だけで帰したくない。
静稀をほんの少しもみじめな気持ちにさせたくない。
2人で余韻をも楽しみたい、それだけなんだ。

「大劇場の公演が終わったら、少しゆっくり過ごそう。有馬か京都か……もっと遠くでもいい。静稀はどこに行きたい?」

「……セルジュと一緒にいられるなら、どこでもいい。ずっとこうしてくっついていられるところ。」
静稀が両手を上げ、僕の首筋に絡ませて、しがみついてくる。
ふるふると小さく静稀は震えているのを感じて、なぜか僕の瞳が潤んだ。

ただ、いとしくて、涙があふれる。
静稀に気付かれないように、僕は涙をこっそり拭った。
細くて華奢だけど筋肉質な静稀の背中をさする。

「そうだね。そうしよう。ずっと一緒にいよう。だから、それまで、がんばっておいで。楽しみにしてるから。」

静稀は顔を上げて、僕を見て微笑み、小さくうなずいた。
そして、どちらからともなく、また深い口づけに酔いしれた。

遠くでドアチャイムが鳴っている。

窓の外を見ると、既に薄暗くなっていた。
由未が帰ってきたのかな。
名残惜しいけれど、僕らは体を起こして、乱れた髪と着衣を整える。

「行こうか。」
静稀の手を取って、サンルームを後にした。

「あ~、静稀さん!こんばんは~!会いたかった~!」
廊下で由未が静稀を見つけて、突進してくる。

「おかえりなさい、由未ちゃん。こないだはありがとう。うれしかった~。」
静稀と由未は手を取り合い、きゃっきゃきゃっきゃはしゃぎだす。
全然タイプは違うけど、ウマはあっているのか。

微笑ましく見ていると、由未が僕を見て変な顔をした。
「?……おかえり、由未。どうかしたかい?」

「……ただいま。」
そう言いながらも、由未は僕と、それから静稀を交互に見比べた。

静稀は口紅を付けてないし、アイメークもしてないから、僕に化粧が移ってはいないと思うのだが……。
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