腹黒司書の甘い誘惑
そうしているうちに、校舎で鳴っているチャイムの音に気が付いた。

腕時計を確認して、これは五限目の授業の終わりを知らせるものだと知り、わたしは慌てる。

荷物を届けるだけにどれだけ時間をかけているのか。
仕事に戻らなくては。

「あの、わたしはこれで失礼します」

「うん。またね」

微笑んだ笹本先生に軽く頭を下げたわたしは次に柊也さんのほうを見たけれど、彼は作業中でこちらに目を向けることはなかった。

だからそのまま外に出て、通路を歩き出した。

どうしよう。豊子さんも美鈴さんも時間がかかりすぎていることを一体どうしたのかと絶対に思っているはず。
わたしは上手な言い訳を探していた。

考えながら歩いていて、ふと、中庭の花壇が視界に入って足をとめた。

花壇の前でホースを使い水やりをしている男性。それが理事長だからだ。
水やりはいつも用務員さんがしているはずなのに、どうして理事長がなさっているのか。

「り、理事長!」

わたしは慌てて駆けだし、通路と中庭の境までやってきた。

声に気づいた理事長はこちらを見てにこりとし、作業を続ける。

今すぐそばに行って「やります!」と言いたいのに、中履きではここまでしか行けない。
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