腹黒司書の甘い誘惑
「そうやって図々しく他人のことに首を突っ込む女が一番嫌いだ」

こおりつくような眼差しに、ズキリ、と胸が痛くなった。

黙ったままでいるわたしからすっと離れた柊也さんは、エンジンをかけて車を動かした。

わたしはゆっくりと視線を下に向ける。
柊也さんの言葉が頭の中で繰り返し響いていた。

『嫌いだ』って、結構キツい。
なにも言葉を返せないほど深いダメージ。

兄弟同士のことに余計なことを言わなければよかったと、後悔しても遅い。
走行中、何度か謝ろうかと思ったけれど、無言の柊也さんの雰囲気は簡単に話しかけられるようなものではなくて、結局なにも言えなかった。


「あの、ありがとうございました」

「ああ」

マンションの前まで送ってもらい、お礼を言っても柊也さんはこちらを見ることはなかった。

わたしは視線を落としたまま、最後に小さくお辞儀をして車を降りた。

すぐに去っていく車。
完璧に、嫌われた。

元々、好かれてなんていなかったけれど、図書館の手伝いや紙芝居のことで彼の意外な一面を知り、距離が少し近づいている気がしていた。

勘違いだったかもしれないけど。でも、以前より上手く接することができていると思っていた。

もっともっと、柊也さんのことを知りたいと思っていた。

「はあ……」

わたしは歩道に突っ立ったまま溜め息を吐いて俯いた。

胸が苦しくて痛くて仕方ない……。
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