あるワケないじゃん、そんな恋。
首に回された腕が震えてる。


振り解かれたにも関わらず、飼い犬のペソは膝の上から降りなかった。




「羽田が………好き………一番好き………」



抱きしめながら言うなよ。

酸欠になりそうだろぉぉ。



「か……管野。首、締め過ぎ……!」


抱き付かれんのは嬉しいよ。

お前なかなか素直にならねーから、こっちは結構苦労するんだ。


元カノの話なんて、情けねーことばっかでしたくなかったのに。

ここまできたら、話さねーと解ってもらえそうにねーだろ。


派遣を拒否るワケも教えてやるよ。

その代わり、後で絶対チューさせろよな!




「ごめっ……」


まだ涙流してんのかよ。


「ほら、もういい加減、顔拭けって」


手渡したミニタオルで、管野は目頭を押さえた。
ハァハァ…と舌を出してる犬は、その顔を舐めようとするのを止められてる。

基本、顔を触られるのは嫌なのか、面白いくらいに拒否していた。


「飼い犬に舐められんの、そんなにヤなのかよ」


何の為に飼ってんだと不思議に思って聞いた。


管野はうん…と頷き、だって…と理由を話した。


「ペソに舐められた後は、いつもベタベタのドロドロになるんだもん。冬だから水は冷たいし、顔洗うのも寒いし……」

「寒がりが理由かよ。呆れるな、お前…」

「羽田だって、人のこと言えないくらい寒がりじゃん!」

「そ、そうだけど……」


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