あるワケないじゃん、そんな恋。
「わ…分かった!分かったから離せっ!苦しいっっ……!」



ジタバタと暴れる君になった羽田を手放した。

やっとこさで呼吸のできる環境を手に入れた羽田は、ハァ〜〜と大きな息を吐いた。



「ご、ごべん……」


鼻水を吸い込みながら謝った。

羽田は呆れる様な顔を見せ、ゴツン…と額をぶつけてきた。



「……いい。許す…」



優しい声の響きに胸が鳴った。
初めて知るような胸の高鳴りを耳にして、それから羽田の方を見たらーーーー




「菅野……俺………」


さっきの言葉の続きだな…と思った。

ゴクッと鼻水と痰を呑み込んで、一生懸命聞こうとした……





けど………





「はーーい!間もなく終了ですよーー!」


頭の上に仕掛けられたスピーカーから能天気な声が響き渡った。

係員が喋った一言は、羽田の言葉を完全にシャットダウンした。



ガクッと項垂れた羽田は、「ははは……」と力なく笑い、緊張が一遍に解けた私も、「ははっ…」と声を漏らした。



羽田に手を借りて立ち上がった。
いい具合に扉が開かれて、「出よう!」と言う羽田に「うんっ!」と素直な返事を返したけど………




「あっ…!!」



ファスナーを上げてなかった右足のブーツが急に脱げて、
見事なまですっ転んで…………





「プーーーーッ!!」


……思い切り吹き出したのは羽田の声だった。



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