あるワケないじゃん、そんな恋。
「…童貞って何だよ」
「童貞って何が?」


二人して同じ質問か。まいるな〜。


ちらっと羽田が私を睨む。
黙っとけ…って言いたそう。
でも、先に話を振られたのは私だからーーー


「羽田が童貞ってどういう意味ですか?そのまま受け取ってよし…ってこと?」


昨夜は散々私のことを罵ってたよね〜と思い出す。

いかにも恋愛経験者のような顔してたけど、まさか、こいつも本当は未経験者なんじゃ……。


「そ……」

「違うっ!!」


大っきな声を張り上げて、羽田がズンズンと近寄ってきた。
ガシッと私の左手首を握り、引っ張りながら叫んだ。


「俺は童貞なんかじゃねぇ!バカなこと吹き込むな!」


思いっきり赤い顔してるよ。
それってホントなの?


「でもさ、この間の飲み会で……」


食い下がるクマさんを一睨み。
ビクッと背中を反らした隙に、私の手首を握ったまま走りだした。



「えっ⁉︎ あ、ちょっと、羽田ぁぁ⁉︎ 」


入ってきたばかりの裏口から外へ出る。
冬空の空気は冷たい。

勘弁してよ。
私すっごい寒がりなのに。




「違うからな」


店舗から離れた駐車場で足を止めた羽田が呟いた。

後ろ頭から見える耳たぶが真っ赤になってる。

寒さのせいかな…と思ったけど違う。

だって、振り向いた顔が赤いから。



「何が?」


意地悪く聞いてやろ。
面白くなりそうだ。


「だから、童貞とか…じゃねーから!」


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