ゾルダート~セルジュの憂鬱(4)

「荷物」とロッタ

「それじゃあ、私はこれで。ロッタ、あとは頑張って」

レイ先輩は、ひらひらと手を振って、オレたちから去っていった~。オレは、ロッタに聞いてみた~。

「ロッタ、どうしてレイ先輩が~?それに、お前が戦えばよかっただろ~?」

「いやそれが、重大な荷物を抱えていたのでな。レイには、警護してもらっておったのじゃ」

オレの背に、緊張が走る~。ゾルダートが武器の使用を控え、別のメンバーが警護に当たる……これは、何かたいへんなことが、荷物の運搬に関わっているとみた~。

「な、なんの荷物だ~?聞いてよければ、だが~」

「それは重大な荷物じゃ。そなたも心して聞け」

「うっ……分かった」

「わたくしの」

「ロッタの」

「セルジュのための、特製手作りお重じゃ!」

バーン!とマンガのような効果音がつきそうなくらいに、それはもう華麗に、ロッタは荷物を包んだ唐草模様の風呂敷を広げた~。そこには、でんとデカい重箱が三段。黒塗りの重箱からは、いいにおいがする~。朝飯をまだ行きつけのファーストフード店で食っていなかったオレの鼻は、ひくひくした~。

「これ、ロッタが作ったのか~?重箱なんてまた、はやりを押さえてるな~」

「ふむ、何しろこの重箱というのは、東の国では珍重されていると聞いたのでな。そして、何か特別なときに、これに弁当を詰め、持参するという……。今日が、その特別な日じゃ!」

「特別……?なぜだ~?」

「セルジュの、ゾルダート入隊記念日じゃ!」

そんな、オレでも忘れてるような記念日に、わざわざ弁当を作って来るとはロッタの思いと情報収集力はすごいな~。というか、オレの入隊した年月日は、書類室でも閲覧できないはずなんだがな~。何しろ、極秘扱いのはずで~。

「さあ食え!やれ食え!」

オレの疑念を知ってか知らずか、ロッタは重箱の中のおかずを箸で器用につまみ、オレの口元にぐいぐいと差し出す~。オレの大好物ばかりじゃないか~。これもまた、どこから仕入れたネタなんだ~?

「パウルが、そなたの好物を教えてくれたのじゃ」

はい、心を読まれた二回目~(参照・セルジュの憂鬱2)!……にしても、パウルが教えたのか~……性別を越えた恋敵じゃないのかよ~。

「パウルは、わたくしとクレー射撃仲間なのじゃ。それで、射撃大会で勝ったわたくしが、パウルに教えてもらったのじゃよ」

ひえ~、あのパウルに勝ったのか~。パウルはゾルダート一の狙撃手だから、相当ショックで、魂が抜けた状態でオレの好物を教えたんだろうな~。ご愁傷さま~。

「…ん、うまいじゃないか~」

「当然じゃ」

ロッタは胸を張る。

「至上の愛がこもっておるからの。それから、最後は……これじゃ!」

最後の重箱を、ロッタが目をきらきらさせてぱかっと開ける。中には、ハート型のデカいマンゴープリンが入っていた!

「おお、マンゴープリン~!これもまたはやりだな~」

オレは、なんの気なしに、用意してあったデザートフォークで、真ん中を突き刺した~。もろいふるふるのプリンは、真ん中から崩れた~。

「ああ!セルジュ、わたくしの愛を、真ん中から半分に割るとは……。どういうことじゃ!?これほど尽くしておるというのに……そなたは私の愛を……」

ショックのあまり目をむいて、なにかぶつぶつ言っているロッタをしり目に、オレは美味しくマンゴープリンを完食した~。
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