おふたり日和 ―同期と秘密のルームシェア―
お風呂からあがると、リビングに直行する。


見たいテレビ番組が始まる時間なのだ。


ソファに座って本を読んでいたトラが、髪から水滴を垂らす私を見て、眉をひそめた。


「こら、うさ! 髪、びしょ濡れじゃないか。ちゃんと風呂場で拭いて来いよな」

「だって、テレビ始まっちゃうもん」


私が唇を尖らせて反論すると、トラは呆れたように肩をすくめる。


「ったく、しょうがないやつだなあ。拭いてやるから、ここ座れ」


トラは足下を指差した。

私はトラの足の間に腰をおろし、リモコンをもってチャンネルを回す。


トラがタオルでわしわしと私の髪を拭いてくれている。


「ついでにドライヤーもかけてしんぜよう」


トラが芝居がかった口調で言ったので、私も悪乗りして、


「ははあ、ありがたき幸せ………」


と頭を下げた。


トラはくすりと笑い、ドライヤーのスイッチを入れる。


優しい手つきで髪をすいてもらうと、なんとも言えない心地よさ。


トラはときどき、気が向いたとき、こうやって髪を乾かしてくれる。


それがなんだか、子どもに戻ったような感じがして、ものすごく幸せな気分になるのだ。



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