愛の胡蝶蘭<短編>
久しぶりの、地元。


11時には少し遅れて、約束の海に足を進める。


『……馬鹿みたい。』


いるわけ、ないのに。


だって、彼は死んだのだ。


確かに、私の目の前で、和の目の前で、息絶えたのだ。


ぎゅっと、送られてきた手紙を握りしめる。


『………っ、』



苦しい、


今でも、こんなに。




何が、待ち受けているのか。


私には分からなくて。



海が、広がっている。


蒼く。



その蒼さと対照的な白い砂浜の上、


立っていたのは、




「蘭!!」



少し、恥ずかしそうに笑った和。


『か、ず…?』



そんなわけが、ないのに。


だって、和には何も言ってないんだから。



『どう、して、』



「ふはっ、蘭?」



近づいて来た和の手が、私の頬に触れた。



『……雄。』



どうしてだろう、自分でも不思議と。



雄の名を、呼んでいた。



違うのに、彼は、和なのに。



雄じゃ、ないはずなのに。



目の前で、私の頬に触れるのは、確かに柔らかい和の手なのに。





「蘭、20歳の誕生日、おめでとう。」





優しく笑った、


目の前の彼は、



確かに、私にそう言ったんだ。




確かに、小さく、頷いたんだ。


『………雄っ……!!』
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