ヒロインになれない!
この日、はじめてタクシーで帰宅した。
「ただいま~。」

しばらくして、セルジュが奥から出迎えにきてくれた。
「おかえり。夕食、何時にする?」

「ん~。着替えたらすぐ準備する~。マサコさん、今日、何作ってくれてはるん?」

……セルジュは広いお屋敷に一人暮らしなので、家政婦さんが来て家事をしてもらってはる。
学休期間を除く平日毎日13時から17時、なので、これからは私はあまり顔を合わせないかもしれない。
でも、食べたいもののリクエストを聞いてくださったり、親身になってくださる素敵なかた。

「春のメニューだよ、豆ご飯。焼き鰆に、鮹の酢の物に、春キャベツのすり流し。デザートは、苺のゼリー寄せ。」

……毎日毎日、季節感を大切にして、素材にこだわった夕食……セルジュのみならず、セルジュのお父さんや、亡きおじいさん・おばあさんの胃袋をがっちり掴んでいたその腕前に、セルジュと結婚する女性は大変だろうなあ、と苦笑する。

「……豆ご飯、苦手ねんけど、まあ、マサコさんなら美味しいよね……食べる。」
そう言い置いて、二階のお部屋へ上がる。

明るい部屋には、ロココ様式の可愛い家具が並び、お姫様気分になれる部屋だ。
実家では、適当な服しか着てなかったが、さすがにこの麗しいお屋敷に来るに当たり、一揃い新調してもらった。
柔らかいジャージーニットのワンピースがお気に入りだが、素材にこだわるセルジュの受けはよくない。

気にせずざっくりと着て、エプロンをかけると一階に降りて、マサコさんの作ってくださった食事を温めて配膳する。

セルジュと2人きりの夕食。
一緒に暮らすようになって、セルジュは口やかましく、私の不作法を注意するようになった。
煩わしくめんどくさく感じることもあるが、確かに勉強になるので、がんばって真似してみている。

苦手な豆ご飯は、豆臭くなくて美味しかった。
今度マサコさんに作り方を教えてもらおう、と思う。
食事の後、甘い苺のゼリー寄せをいただきながら、セルジュに今日の話をした。

「……じゃあ、普通にマネージャー試験(笑)に合格するより、よかったんじゃない?印象付けられたことだし。」
セルジュが半笑いでそう言った。

サッカーに興味が皆無のセルジュは、私の恋にも、たぶん興味がない。
ただ、預かった親友の妹に親切にしてくれているだけなのだろう。

それでも、2人とも新しい環境に入ったばかりで、他に腹を割って話す人もいないことも手伝い、私達は今まで以上に打ち解けていた。

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