【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
多分、蒼次郎は私の小さな嘘と心変わりに気付いているのだろう、と思う。


だけど、私は気付いていることに気付かないふりをして嘘の仮面を貼付けて笑う。


蒼次郎だって気付いているのに気付かないふりをしているのだ。お互い様でしょう?


私達は、きっとこんなことの繰り返し。今までも、そしてこれから先も。


結局、そうやって皆は傷付きたくないから嘘を本当にしていく。そうして大人になっていく。


私ばかりじゃない。蒼次郎だって周りの皆だって、汚くじめじめした道を知らず知らずのうちに選んでいるんだ。


そうじゃない人間なんて……この世の中にいるのかな。


あの、甘く柔らかい、優しい笑顔を持っているタクも、あるいは本質的にはそんな人間なのだろうか。


あの人には、晴れ渡った砂利一つも無い綺麗に整った道が似合う。私が抜ける事の出来ないその道を知らないでいて欲しい。


多分、タクには特別な人間でいて欲しいだけなんだ。そんなの、私のただの我儘だ。
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