【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
背広の王子様

部屋を包み込む独特香り。それは、鼻に通るようにすっと吹き抜ける香り。


そう、例えるならばミントのような香りが、私の身体と涙腺を支配する。


上で動く相手。この人は……ああそっか。私の彼氏だったっけ。


何にも感じない。彼氏なのに。それがおかしな事に私の日常。


そもそも、別にどうしようもない恋愛感情があって付き合い出したわけじゃない。


付き合ってって言われたら、仲が良く、尚且つ嫌いな相手じゃなかったらたいがい断らないと思う。恋愛ってそんなもんでしょう?


だけど、そんな気持ちで付き合った相手とのセックスは、何も感じない。その事を、まだまだ子供の私は失う事によって知ったんだ。


失う事で、なんて重たい言い方をしては見ても、実際は初めてを失った時も別に痛くなかったし、慣れてから気持ち良くなるでもなくて。


だから、私にとってセックスは『恋人』という形を崩さないための『儀式』でしかない。この人との関係を保つための『共同作業』の一つでしかない。
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