Poisony Poison Girl
「へえー、キノコが、はははは!それはびっくりするねえ」
 毒素さんは所長が入ってきて早速、キノコの話をした。所長はその話を気に入ったようで恰幅よく笑った。毒素さんは計画通りだと言わんばかりに嬉しそうだった。僕はモナリザ並みの微笑を浮かべてみた。
「しかしよく、ベニテングタケだとわかったねえ」
「たまたま本で読んだのよね。私もびっくりした」
「本で?この間買ってあげたあれかな?」
「違うよ、ルイお兄さんが持ってきてくれたのよね」
 ………やっぱり親子水入らずのほうがよかったんじゃなかったんじゃなかったか。
「そうだ、ジン君」
「え、あ、はっははい」
「何なのよその返事」
 僕のような弱小兵隊さんは突然にして死角のステルス部隊から予想外の攻撃を受けたらそうなるのだ。
「君のおかげで論文がまとまりそうだよ。ありがとう」
「は、はあ…」
「それで、全学研の本部から、娘の研究をもっと本格的にやりたいと要請が来たんだ」
「本部から、ですか」
 数週間前ルイが言っていたのはこのことか。ルイの話から時間が結構経っているがそれはそれだけ話が難航しているのだろうか?
「要請って、具体的にどんなものですか?」
「さあ、私にはまだわからない。しかし、論文の出来次第では全学研に引き取ることにもなるだろうと言っていた」
 全学研に…引き取る…。
 それはつまり、毒素さんがここに居られなくなるということだ。
 ふと毒素さんを見た。
 無機質な顔だった。
「そうですか…」
「もし引き取ったとしたら、君は別の毒生物に関しての研究をしてもらうだろう」
 毒素さんと別れるかもしれないのか…。

所長との団らんを終えて、部屋がふたりだけを収容する状態に戻ったのは、午後五時のことだった。外は夕暮れで毒素さんが外に立っていたら同系色の効果で見えなくなってしまうような紫色の空だった。しかし、彼女が外に立つなど不可能だということは分かっている。
「毒素さん、体調とかどうですか」
「吐きそう助けて」
「大丈夫ですねわかりました」
 目が笑っているぞ。よかった。もとの毒素さんに戻っている。
「どうでもいいこと教えるね」
「なんですか」
「お父さんの遺伝子、やっぱり私の中に入ってるらしいよ」
 薄々気づいてました。

毒素様の夕食終了のお時間です。本日も見事などどめ色をお召し上がりになっていました。壁に設置されたお食事用エレベーターで食器が下げられます。
「どどめ色どどめ色って言うけどさ、どんな色か説明できるの?」
「確かに見れば分かりますが口で説明するのは難しいですよね…」
「赤のような青のような紫のような黄色のようなね」
「打撲したときの肌の色ですね」
「痛そうな例えよね…ご飯が進まなくなっちゃうじゃない」
「例え僕が打撲を知らなくてもどどめ色のライスなんて食べられません」
「意外と美味しいのよ?」
「僕の口内には毒素さんと同じ種類の味らいの設備はありませんので」
「無いのならおひとつどうぞ」
「僕に他界しろと」
「キノコは取っちゃうし前髪は切らせてくれないしね」
 毒女に毒づかれた。お前の額にどどめ色を作ってやろうか。
「丁重にお断りさせていただきます」
「じゃあお兄さんとは永遠にお食事デートはできないわ」
「なんちゅーミステリアス電波系猛毒カップルですか。いや、猛毒は彼女だけでした」
「実は私の唇は風邪に効く抗体でできてるのよ、キスすれば病気もあなたのハートもイチコロなのよね」
「毒じゃなくてですか」
「一瞬にして嘘がばれたわ」
「毒素さんの恋人になったら刺激的な恋愛ができそうですね。いろんな意味で」
「痺れちゃうのよー」
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