君の隣
 一度道明は言葉を切って、続けた。

「さあ、ここからだよ、拓実。

 彼女の痛みを受け止めるのは、言葉だけじゃない。

 行動だ。

 覚悟をもって、向き合え。

 ……じゃないと、ずっと白衣のポケットに忍ばせてる小箱の出番、ないぞ?

「あれ、彼女に渡すために持ってるんだろ?
 だったら、ちゃんと向き合って。

 彼女が“受け取ってもいい”って思えるような男になれ」

 拓実は深く息を吸い、覚悟を胸に握りしめる。
 
 
病室に戻った拓実を、理名が静かに見つめていた。
 彼女は、まだベッドに身体を預けたままだ。

 拓実はベッド脇の椅子にそっと腰を下ろした。

 長い睫毛の奥の瞳は、揺れていた。

理名がぽつりと呟いた。

「……もう、知ってるんだね、全部」

 拓実はゆっくり頷いた。

「朱音先生に……聞いたよ」

その言葉に、理名は小さく肩を震わせた。

 枕元の点滴の音だけが静かに響く。

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