恋がしたい。ただ恋がしたい。

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***

日曜日。『Milkyway』の店内は、16時を回ったというのにまだ混みあっていた。


テーブル席が空いていなかったので、紫と二人でカウンター席に腰かける。


「いらっしゃい。二人とも、ずいぶん久しぶりだね。もうケーキは注文して来た?」


笑顔で声をかけてくれたのは、バリスタの陽介さん。『Milkyway』でイートインを利用するお客さんは、お店の方のレジカウンターでもイートインのスペースでも、どちらでも注文をする事ができる。


「はい。カウンターの方で。…今日は志帆さんはお休みですか?楓(かえで)ちゃん1人だったから。」


答えたのは紫だ。楓ちゃんはアルバイトの若い女の子で、カフェスペースではウェイトレスを、カウンターの方ではレジを任されている。


「うん。今日はちょっとね…あ、オーダーが来た。待っててね。」


そう言うと、陽介さんは慣れた手付きでドリップを始めた。


「はい。お待たせしました。」


私達が頼んだブレンドとカフェラテが目の前に置かれた瞬間、タイミング良くケーキが運ばれて来た。



「いらっしゃいませ。フォンダンショコラは…聞かなくても分かるな。毎回毎回同じので、よく飽きないな。」



失礼な物言いで、半笑いしながら私の目の前にケーキを置いたヤツは、小山奏一だ。見なくても分かる。


毎回、毎回、人のことを馬鹿にして、よく飽きませんねと言ってやりたいくらいだ。


その接客業(パティシエだけど…)とは思えないくらいの失礼な態度にいつもなら徹底的に無視をするところなんだけど、今日はそうもいかない事情があった。
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