恋がしたい。ただ恋がしたい。

「…飽きないよ。小山くんのケーキはどれも美味しいんだけど、私はこのオレンジピールの入ったフォンダンショコラが大好きなの。だから…これからもここに通わせて下さい。先日は、ご迷惑をおかけしました。」


おっ、と驚いた表情をしているカウンターの二人に向かって深々と頭を下げた。


亨との一件で、陽介さんにも志帆さんにも…(たぶん)小山にも迷惑をかけてしまったと思う。


お客さんは少なかったけど、あの場にいた人達には望さんが現れてからの私達の会話は、全部聞こえてしまっていたはずだ。


「…ちょ、ちょっと香織ちゃん!」


陽介さんが慌てて頭を上げてと言ったけど、でもそういう訳にはいかない。…今日は謝る為にここに来たんだから。


頭を下げたままの私に、紫が呆れたように口を挟む。


「ほらね、やっぱり謝らないでって言われたでしょ?でもね、この子頑固だから、私がいくら大丈夫でしょって言っても聞く耳持たないのよ。」


本当は菓子折でも持って来て、床に頭を擦り付けて謝りたいくらいだけど、ケーキ屋さんに菓子折…っていうのもそれはそれで失礼な話なので、誠心誠意謝る事にしたのだ。


「しばらく来てなかったのって、それが原因?…大丈夫だよ。こっちは迷惑かけられたなんて思ってないからね。だから、そんな事気にしないでこれからもいいお客さんでいて下さい。そっちのほうがウチとしても助かるんだから。」



陽介さんが優しく声をかけてくれた。
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