恋がしたい。ただ恋がしたい。

トイレから戻ってそっと職員室の様子をうかがうと、純くんも志田ちゃんもまだ職員室に戻って来ていなかった。


…よし、このまま純くんが戻る前にさっさと帰ってしまおう。


ささっと机に駆け寄り、机の上を素早く片付ける。


チカチカと着信ランプが点滅しているスマホを右手で掴み、左手で鞄を掴んで「お疲れさまです」と言った瞬間には、もう身体は職員室を飛び出していた。


***

そのまますぐ帰る気にもなれず、気を紛らわすように街をうろうろして、マンションに戻る頃には、辺りはもうすっかり暗くなっていた。

鞄から鍵を取り出して玄関のドアを開ける。

2LDKの間取りのこの部屋は、三階の奥側にある。

奥と言ってもちゃんと部屋の前まで灯りが付いているから、鍵を探すのに手間取ったりせず、ライトなんかで照らさずに済む所が嬉しい。


予想外に始まった同居生活だったけれど、慣れてしまえば大学生の時から独り暮らしをしていた前のアパートより、はるかに住みやすかった。


とは言え最初は良くても、友達だけど他人と過ごす事に私のほうが段々と違和感を感じて来るのではないかと密かに思っていた。


「今日は…ラストまでだったっけ…?」


裕介くんのシフトを口に出して呟いてみる。


一人でゆっくりと夜遅くまで自由に過ごせるはずなのに、ほっとする気持ちよりも、何だか寂しい気持ちのほうが大きくなってしまった。
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