恋がしたい。ただ恋がしたい。

「何ぼんやりしてるの?ほら、早く座って。一緒にご飯食べようよ。」

促されるまま、リビングのローテーブルの横に腰を下ろす。


「う、うん。…裕介くん、ずいぶん早起きだね。たしか今日もラストまででしょう?」


「そうだよ。だけど用事があるから早目に出ないといけないんだ。最近忙しくて香織ちゃんとゆっくり話もできなかったから、朝ご飯だけは一緒に食べたいなって思って。メニューは任せてね。香織ちゃんは…今日も学校に行くんだよね?」


ここ最近、裕介くんは早くあがれる日でも遅くなることが多く、すれ違いが続いていた。


同居人として、ちょっと寂しい気持ちを感じていたのだけど、こうして時間を合わせて一緒にご飯を食べようって誘ってくれた事が嬉しかった。


「和希(かずき)さん、ほんと人使い荒いんだよ。おかげで香織ちゃんとゆっくり過ごす時間が減っちゃったし。…何の為に一緒に住んでるんだか分かんないよね。」


いつから支度をしていたんだろう。何やらキッチンで忙しく動き回りながら、ブツブツと呟くように文句を言っている。


和希さんとは『Felicita』のオーナーであり、パティシエの菅原和希(すがわら かずき)さんの事だ。


前に一度紫と一緒にお店に行った時、わざわざ席まで来て挨拶をしてくれた事があった。


イケメン揃いの『Felicita』を率いているだけあって、40代には見えないくらい若々しくて、カッコ良い人だった。


そんなパティシエとしての腕も一流だけど、接客のプロでもある和希さんの事を裕介くんは尊敬していて、目標にしているのだと常日頃から口にしている。
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