恋がしたい。ただ恋がしたい。

裕介くんの事をかっているからこその厳しさなんだろうと思うのだけど、それは本人も分かっているみたいだ。


口では文句を言いながらも、その表情は不満を抱えているようには見えず、むしろ生き生きとして見える。


最近では接客以外の仕事も任される事が増えてきて、お店に新人の子が入って来ると、キッチンのほうでもフロアのほうでも研修を受け持っている…というのは前に裕介くん本人が嬉しそうに語ってくれた。


「時間合わせてくれるのは嬉しいけど、無理しないでね。ストレスたまっちゃうよ?それに、私と過ごす時間よりも和希さんから色々教わったほうが有意義だって。…裕介くん、将来は和希さんみたいな素敵でイケメンなオーナーになるんだよね?」



…もちろん、そんな話は聞いた事が無いんだけどね。



「今は王子だけどねー。」とついでに少しだけからかうと、裕介くんは頬を膨らまして拗ねたようにプイッとそっぽを向いてしまった。


「僕にとっては今も有意義で大切な時間だよ。香織ちゃんと一緒にいる時間は、僕にとって唯一の癒しだからね。」


「…だから、あんまり和希さん和希さん言わないでよ。」


しまった、からかい過ぎちゃったかな。拗ねた表情がちょっと不機嫌な表情に変わってしまっている。


…何で『だから』なのかは、ちっとも分からないけど。


「憧れの人の名前、気軽に口にし過ぎちゃった?ごめんね。じゃあ、これからは菅原さんって呼ぶから。」


「そういう事じゃないって。」
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