好きも嫌いも冷静に

「でも…」

「大家さん、今夜はもうこんなに遅くなりました。こんな事になってしまったし…今夜は…もう」

「あ」

「さあ、部屋に入って、…休んでください」

「…あ、はい」

部屋の前まで大家さんを連れて行き、抱き留めて、頭にキスをした。募るような瞳が切なかった。互いに離れ難いもどかしさはあった。
…体を離した。

「じゃあ、…おやすみなさい。鍵、ちゃんとしてくださいね」

「…はい、おやすみなさい」

繋いでいた両手をゆっくり離した。指先で一瞬、止まった。
こちらに背を向けて部屋へ入って行った。
カチャリとドアが閉まり鍵をするのを確認して、俺は階段を上がった。

ここに潜んで居たんだ…。
オートロックのマンションだって侵入しようとしたら入れる。
まして、ここは、元々そんなモノは無いアパートだ。
気づかず一緒に階段を上がって来て、揉み合っていたかと思うと…ゾッとした。
今夜このアパートのどこかの部屋に侵入するつもりだったのだろうか…。
それとも、行き場が無くて、この辺をうろついていて、たまたま此処に隠れていたのだろうか…。
どちらにせよ、捕まった事は良かった。
笑い事じゃないが…、アイツも今夜は未遂。
俺も未遂になっちまったじゃないか…。
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