好きも嫌いも冷静に
情熱の中の冷静


「澪さん、話があります」

「はい」

ドキッ、今日は何だろうか…。今日はうちに居る。

「籍、入れませんか?」

「え…、えっ?」

「俺達、入籍しませんか?」

「え…?」

「…こうして、互いの部屋を行き来する生活も良くないですか?俺は結構気に入ってるんです。
一つの家、同じ部屋で暮らさなくても充分楽しい。お互いプライベートルームがあると思えばいいんじゃないですかね。
どうでしょう?」

「はい、私もそれは、伊織さんがいいのであれば、私もいいと思っています。遠慮ではなく、本当にそう思っています。
でも、…何故、入籍を急ぐのです?私は勿論、嬉しいですけど」

「高が、紙切れ一枚と思うかも知れません。
…嫌なんです」

「え…、何が嫌なんですか?」

「貴女を誰にも取られたくないんです。そして貴女を不安にさせたくないからです。
妬かなくていいヤキモチは、なるべくならない方がいい。
焦がれるのは…貴女だけでいい。貴女だけに焦がれたい」

「伊織さん…」

「勿論、入籍なんかしなくたって気持ちは何も変わりませんよ?
でも、人はそういうモノ、形式に弱いところがあります。そうする事で諦めてくれる事、あると思います。
だったら、入籍して、貴女の不安要素、少しでも減らせるなら、俺はそうしたい」

「…う、う、うわ〜ん」

「ぉおっと。れ、澪さん?どうしました?」

泣きながら胸に飛び込んできた。

「う、う…、嬉しいんです。嬉しくて…うわ〜ん…伊織さん」

頭をゆっくり撫でた。

「…澪さん。好きですよ。大好きです。これからもずっと好きです」

体を離して覗き込んだ。
流れる涙を親指でそっと拭った。

「僕は貴女と居ると、自分らしく自然で居られるんです。これからもずっと、手を繋いで歩きたいです。貴女じゃないと駄目なんです。僕のお嫁さんになってください」

「うわ〜ん…。は、はい!宜しくお願いします!」


澪さんは、隣に座る俺の首に腕を回して、唇を重ねた。



−完−

< 145 / 159 >

この作品をシェア

pagetop