好きも嫌いも冷静に

・見惚れる


シャーッ…。
ゆっくりと開くカーテンの音と供に澪さんが現れた。

「……あの、どうでしょう?」

探るように尋ねてきた。

「……」

「素敵ですね、よくお似合いですよ。お肌が白くて、とても綺麗ですね」

無言の伊織さんに反して、決まった美辞麗句を口にするのは担当してくれているお店の方。

「……」

「あの、伊織さん?えっと…キャッ。伊織さん?」

「澪さん、…綺麗だ」

試着室の奥、勢い余って中に押し戻された格好になった。
伊織さんは私を抱きしめていた。
まるで、人の目から隠すように。
ドレス選びのため、髪の毛をまとめ上げ軽く結んでいた。頭にはティアラ。
最終候補に残した内の一つ、私はクラシカルなドレスを身に纏っていた。
ほんのりアイボリーで、シンプルだけど、ラインが綺麗で、私はこれがいいと、自分の中では既に決めていた。
他のモノもそれぞれに良いのだが、最初から、これだと直感で決めていた。

「凄く綺麗だ、澪さん。誂えたみたいに。だけど…、だから駄目だ」

「え…」

駄目って…、駄目なんだ…。伊織さんは他のがいいのかな…。

「澪さんの肩、胸元も…、人に見せたくない…」

「え?」

そこ?駄目って言う理由はそれですか?
そんな事言ったら、…ドレスなんて着られないかも。ですよ?……。ほとんどそんな物ですよ?

「まあ…。羨ましいです。素敵なお相手の方ですね。愛されてる証拠です」

そんな事言いながらも、ブライダルの社員さんは、伊織さんに見蕩れているじゃない…。もう…。

「ぁ、はい。有難うございます。伊織さん?私はこれがいいです。これが着たいです」

一生に一度きりの事。
そう思ったら譲りたくない。いつになく頑固だ。

「ううう…。どうしてもですか?」

「はい、これがいいです。これじゃなきゃパーティーには出ませんから」

強気に出てみた。

「ううう…。ううう…」

まだ唸っていた。
…何だか可愛く見えてきた。

「諦めてください、終わったらすぐ脱ぎますから、ね?」

顔を見上げながら懇願してみた。
これだけ頼んだら…どうだろう?

シャッ。
急いたように伊織さんがカーテンを引いた。

「伊織さん?」

あっ…。
唇を重ねられた。
ギュッと抱きしめられた。

「……シーーッ。…そんな可愛い顔、しないでください。綺麗な肩も背中も、誰にも見せたくないんです…。
はぁ、しようがないです…。でも約束ですよ?
終わったらすぐ脱いでくださいね?」

「…はい、…約束します」

「約束しましたよ?
終わったら直ぐ、俺の腕の中で…」

「ぇ?」

悪戯で色っぽい顔をした真面目な王子様は、自分自身も試着した素敵なフォーマル姿で私の肩にそっとキスを落とした。
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