好きも嫌いも冷静に
何だか、心配になってしまう。大丈夫かしら…。
何を考えているのかしら…。
「…私は公人です」
「は、い」
「…このままでは、倫理に反する事になります」
「は、い?」
「してはいけない道徳です。つまり、…その、不倫になりますから」
「え?何を、一体…」
「それは私の立場では決して、…してはいけないモノなのです。勿論、一般的にも駄目です。
だから、…貴女を好きでいる事は職を失う覚悟で…、やはり辞めるしか‥」
「あの、ちゃっと…」
「ちょっと待った。待ってください。
…駄目ですよ。冷静になってください。簡単な事です…」
「伊織さん!」
「あ‥」
いつから居たのかしら。
「お巡りさん、貴方が澪の事を忘れる事です。
…簡単な事です。
こんな大変な職業を選んだ時の気持ちを思い出してください。折角就いた職業、経歴を無駄にしてしまうおつもりですか?」
「御主人…」
「市民を護る、素晴らしいお仕事じゃないですか。澪を好きになって頂き、有難うございます。
貴方のその真っ直ぐで純粋な気持ち、これからは、澪の事、一市民として護ってやってくださいませんか?」
「ああ…、ああ…、なんて事を…すみません。
‥危ないところでした。有難うございます。
ガツンと一発、殴って頂いた気分です。いや、実際殴って頂いた方がもっと良かったかも知れないです。申し訳ありませんでした。…過ぎた事を、…しようとしていました。自分、…職務を全うしたいと思います。
ただ、この気持ち、簡単には…片付けられませんが、おかしな事は決して致しませんので。
すみませんでした。失礼します」
高城巡査は帽子を取り、敬礼ではなく、深々と頭を下げ去って行った。
「ご苦労様でした‥」
「……伊織さん」
「…澪さん、ただいま。このタイミングで帰って来た事、…感謝してもらおうかな?」
「伊織さん、お帰りなさい。有難うございます。あの、これは…余りにいきなりな事で…、どうしようかと…」
「彼は大丈夫です。次からは普通のお巡りさんですよ。元がしっかりしてますから。軌道修正は出来るはずです。何より警官という職業、好きなはずですから。彼だからお巡りさんになったんです。真っ直ぐな、一つの事しか見えなくなる…、一途な人なんでしょう。
しかし、危なかったです」
好きになった人を忘れる事は決して簡単な事じゃない。
タイミングがタイミングなら、澪の旦那になっていただろう…。
高城巡査、…彼はいい男だ。