好きも嫌いも冷静に

・英雄。ちょこっと実花



「いらっしゃいませ〜」

「おはようございます」

「……」

なんだ?英雄。虫の居所が悪そうな顔して…。
マスターのくせに不機嫌なんてな…客商売なのに。まあ…いい、時間もそんなにないし。

「モーニング、ブラックでお願いします」

「あ、はい!伊織さん、空いてる席にどうぞ」

「……」

一言も発しないなんてありか?まあ、そんな日もあるってことだな。

「では…あ、あそこ、いいかな」

「はい、どうぞ。直ぐお持ちしますから」

「有り難う」

窓際の席についた。まだ喋らない…。それでも手は動かさないとな。注文、入れたぞ?早めによろしく。


「おい…」

「うわっとぉ!…びっくりしたぁ。…いつの間に…」

持っていたビジネス雑誌をペラペラと見ていたところに、英雄が顔を突っ込んできた。…顔が近い。

「伊織…。聞きたい事があるんだ」

「はい、お待たせしました、どうぞ」

「…」

「…」

「あ、すみれは、お邪魔虫で‥、す‥、か?…」

何も言葉を発せず見合っているから、ちょっと引いたようだ。

「あ、否…、そうじゃないけど。ちょっと伊織と二人にしてくれないか」

慌てたのは英雄の方だった。

「はい。でも、マスターだけ伊織さん独り占めはズルイ〜」

いや、いや、変な誤解が生じるから。
ほら、何となく妙な視線が…、あちこちから向けられてるような…。
今は、それは、ちょっと置いといてほしいことだ。

「ちょっといいか」

「あ、うわっっ、おい、ちょっと…どこに…」

不意打ちだ。このままでは埒があかなくなったのか、英雄は俺の腕をいきなりがっちり掴むと、店の奥、多分スタッフルームだ。ズカズカ向かい始めた。

「おい…」

こんなことをされる謂れはない。
…いや、いや、益々疑惑の目が向いているような…。無理矢理連れ込まれてるとか…、思われてないか〜、これ…。

部屋に入ると椅子を引いて座らされた。

「どういう関係なんだ?」

「それは…こっちだって。こんな…いきなりどういうつもりだ。何のことだよ」

こんな…人のいないところに連れ込まれて…関係?なんのことだ。

「惚けるな!俺は見たんだ…」

おー…えらい剣幕だな。

「…だから何を。落ち着いて…」

「昨日だ。伊織の運転する車に、…環さんが乗ってた…。はっきり見たからな?俺のこの目で。どういう事だよ」
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