好きも嫌いも冷静に

帰り、英雄との約束だから、店には寄るつもりだったが、急ぎで資料にしたい本が必要になったので、本屋に立ち寄っていた。

確かこの辺りに…あった。これだ、これ。
俺は足早にレジに向かった。少しでも時間は無駄にしたくない。列が出来ていた。仕方ない、そういう時間帯だ。並んだ。レジでのやりとりは人でそう大差はない。割りと早く俺の番になった。本を差し出した。
会計を担当してくれた子が、何やら落ち着きなく俺を見た。
?。何か紙のようなモノを挟み込み、袋に入れたようだ。
あれか、新刊の案内か何かだろう。そういった物も入れないといけないときもあるよな。忘れてたからって叱られるのだろうか。それほどのことでもないのか。
本屋でのこと、大して気にもしていなかった。
礼を言って受け取り、英雄の店に向かった。

こちらも丁度お客さんの多くなる時間らしく、忙しそうで、英雄が申し訳なさそうに顔の前で拝むように片手をあげたから、俺はコーヒーとバーガーを注文して待つ事にした。…注文してからしまったと思った。これで今日はパンばっかり食べることになってしまった。…まあ、いいさ、一日でどうこう、命に関わることでもない。だけどそう思うと急に米が恋しくなった。ハハ。
さっき買ったばかりの本を取り出し目を通すことにした。こういう状況では身が入るものでもないが、ある程度の目星をつけるくらいの集中力はある。付箋、貼っとくか。
パラパラとめくるページから紙が落ちた。
拾い上げて見ると、アドレスと実花という名前。ん?これは……これがさっきの、入れられた紙だったのか…。紙はレシートだった。俺の物ではない。誰かが要らないと断った物だろう。
それにはこう書いてあった。

【私の事は知らないと思いますが、私は時々来店される貴方にずっと心惹かれています。こんな突然な行為、不気味に思われない事を願っています。お友達からお願いできませんか?】

これほどの時数。走り書きにしては綺麗に書かれていると思った。……。
携帯を取り出した。メモされたアドレスにメールした。

【先ほど本を買って貴女に可愛らしいお誘いを受けた者です。
気持ちは嬉しいのですが、友達からといっても、過度な期待を持たせてはいけないので、このお誘いは見なかった事にします。
有難う。また本を買いに寄らせて頂きます。
紙は破棄します。アドレスは削除します】

こんな感じなら大丈夫かな。
変に時間を空けて、色々と期待を持たせてはいけない。
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