好きも嫌いも冷静に

眠っていた。意識を飛ばし、ぐったりと俯せに横たわっていた。眠る環さんに布団を肩まで掛け、俺はベッドに腰掛けた。

灰皿が置いてあるから、タバコ吸っても大丈夫だよな。
ボクサーパンツ一枚で座ったままの俺は、散らかっている服の中から上着に手を伸ばし、ポケットからタバコを取り出し火をつけた。
ユラユラと昇る煙に顔をしかめた。
ふぅ…。ゆっくりと吸い、吐き出した。
灰皿に押し付け、消えた事を確認した。
服を拾い上げ、音を立てないように静かに身につけた。
起きる迄、側に居たい。一緒に‥、目を覚ますまで、腕の中に抱きしめていたい。
だが、時間が無い…。
はぁ…、くそっ、こんな日に…。
今日は店がある。はじめから解っていたことだけど、なんで休みじゃないんだ‥。恨み言が口をついて出た。
準備がある。行かない訳にはいかない。
はぁ、…環さん、ごめん。
俺は屈み込み、肩に、頬に、そっと口づけた。
…綺麗な寝顔だ。その横顔、髪に触れてみた。
アップにしていた髪が、今は解けてフワリとしていた。
……白くて綺麗な首すじ。このうなじに、昨夜俺は、背中から何度も口づけた。
はぁ‥、ダメだダメだ。帰れなくなる。
髪を撫でて、俺はもう一度、頬に口づけた。

「…ごめん、環さん。そろそろ行かなきゃ……行ってきます…」

そう呟いて部屋を静かに後にした。


「……英雄‥……行ってらっしゃい…」
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