最後の賭け
元彼
まだ薬局から三十メートルも歩いてないのに、と慌てて電話を取り出すと、そこに表示されてあったのは新人の名前ではなかった。

 真依子は、眉をひそめて電話に出るのを迷ったが、あまりにも続くバイブレーションに諦めて、通話マークをスライドさせた。

「もしもし? 仕事中なんだけど」

――あー、真依子? 仕事かあ、ごめんごめん――

 そう言いながらも、母が電話を切らないのは分かっていた。

――暑いけど元気?――

「元気よ。それよりどうしたの、急に。まだ仕事中なのよ」


 真依子はお店の入口から、駐車場の奥の方へ移動した。

 とっさに嘘をついた。

 要件だけ聞いて早く電話を終わらせないと、母のペースに付き合っていたら、牛丼を食べ損ねてしまう。

彼女は相手のことなど構わず、ああじゃないこうじゃないと長電話をするのが好きなのだ。

昔から。

――いやさあ、浩一くんからハガキが届いたのよ――

「えっ、誰から?」

 外だということも忘れ、思わず声が大きくなってしまう。

――だからあ、浩一くんよ、浩一くん――
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